遺留分

遺留分の意義

遺留分とは、一定の相続人に対して留保された(一定の相続人に対して取得が保障された)、相続財産の一定割合をいう。

相続開始とともに遺留分(相続財産の一定割合)を取得する権利を遺留分権といい、遺留分権を有する者を遺留分権利者という。

 

遺留分制度の趣旨

人は生前に自分の財産を自由に処分することができ、これは死後も同様である。つまり、被相続人は自らの財産を相続分の指定、遺贈、生前贈与等で自由に処分することができる。したがって、基本的には、推定相続人の相続への期待は権利として保障されない。

しかし、次のような理由から、民法は兄弟姉妹以外の相続人に対して相続財産の一定割合について遺留分という相続財産に対する権利を認める。

  • 遺族の生活保障
  • 遺産の形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算
  • 相続人間の不公平の是正
  • 家産の維持

遺留分制度は、被相続人の財産処分の自由と相続人の保護の調和を図った制度であるといえる。

遺族の生活保障

すべての財産を自由に処分できるとすると、被相続人の財産に依存して生活している相続人(例えば、親の財産に依存して生活している子)の生活が保障されない。

遺産の形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算

また、被相続人名義の財産形成には、相続人の貢献があったはずである。つまり、被相続人の財産には、相続人の潜在的持分が含まれていることが多い。例えば、夫(妻)が自らの名義で婚姻中に取得した財産に対して、妻(夫)の潜在的持分があると考えられる。このような潜在的持分は、離婚の時の財産分与で顕在化されるのと同様に、相続時においても顕在化させる必要がある。

相続人間の不平等の是正

相続財産を特定の者が相続した場合、相続人間で紛争が発生しやすい。

相続人間の不公平を是正することで、相続人間の紛争を防止する。

家産の維持

明治民法が採用していた家督相続制度の下では、遺留分制度は家産の維持を目的とする制度であった。

 

遺留分の帰属と割合

民法第1042条(遺留分の帰属及びその割合)

1 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。

一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一

二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一

2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

遺留分を有する相続人

遺留分を有する者(遺留分権利者)は、兄弟姉妹以外の相続人である(民法1042条1項)。具体的には、子(代襲相続人である直系卑属を含む)、直系尊属、配偶者である。

遺留分の割合

相続人全体として認められる遺留分(総体的遺留分)は、次の通りである(民法1042条1項)。

  • 直系尊属のみが相続人である場合→相続財産の3分の1
  • 上記以外の場合→相続財産の2分の1

各相続人に認められる遺留分(個別的遺留分)は、総体的遺留分に各自の相続分を乗じた割合である(民法1042条2項)。

 

遺留分の算定

遺留分算定の基礎となる財産

民法第1043条(遺留分を算定するための財産の価額)

1 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。

遺留分は被相続人の財産を基礎として算定されるため、まず、算定の基礎となる被相続人の財産の範囲を確定することが必要となる。算定の基礎となる財産は被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して算定する。

算定の基礎となる財産に贈与した財産の価額を加える理由は、遺留分制度の実効性を担保するためである。

贈与の取り扱い

民法第1044条(遺留分を算定するための財産の価額)

1 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
2 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

民法第904条(特別受益者の相続分)

前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。

負担付贈与の取り扱い

民法第1045条(遺留分を算定するための財産の価額)

1 負担付贈与がされた場合における第千四十三条第一項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。
2 不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。

 

遺留分侵害額請求権

遺留分減殺請求権(旧民法1031条)は、2018年の相続法の改正により、遺留分侵害額請求権(新民法1046条)へと改められた。遺留分減殺請求権では原則現物返還とされていたが、遺留分侵害額請求権では遺留分侵害額に相当する額を金銭の支払い(金銭債権化)によって処理することとなった。2019(令和元)年7月1日以後の相続から適用される。

 

 

 

参考ページ

日本の遺留分制度 – Wikipedia

法務省:法制審議会-民法(相続関係)部会


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