判例情報
- 事件番号
- 昭和40(オ)1197
- 事件名
- 売掛代金請求
- 裁判年月日
- 昭和44年11月27日
- 法廷名
- 最高裁判所第一小法廷
- 裁判種別
- 判決
- 結果
- 棄却
- 判例集等巻・号・頁
- 民集 第23巻11号2301頁
- 原審裁判所名
- 仙台高等裁判所
- 原審事件番号
- 昭和37(ネ)589
- 原審裁判年月日
- 昭和40年7月14日
- 判示事項
- 一、代表取締役代行者なる名称と商法二六二条
二、いわゆる持ち廻りの方式によつたため有効な取締役会の決議とは認められないとされた事例
三、代表者選任が無効な場合において商法二六二条の類推適用が認められた事例
- 裁判要旨
- 一、代表取締役代行者なる名称は、商法二六二条にいう会社を代表する権限を有するものと認むべき名称に該当する。
二、株式会社の代表取締役が行方不明となる緊急状態が生じたので、他の取締役全員が、判示のように、取締役甲に代表権を付与することを承認した場合において、その承認が、いわゆる持ち廻りの方式によるものであるときは、有効な取締役会の決議とは認められず、取締役甲は、会社の代表権を取得しない。
三、株式会社の代表取締役が行方不明のため、他の取締役全員により、正式に代表取締役が選任されるまでの間一時的に、会社の代表権を行使することを承認された取締役が、右承認に基づき、代表権を有するものと認むべき名称を使用してその職務を行なつたときは、右承認が取締役会の代表者選任決議と認められず、無効の場合であつても、会社は、商法二六二条の類推適用により、右名称を付した取締役の行為につき、善意の第三者に対してその責に任ずべきものである。
- 参照法条
- 商法262条,商法260条ノ2第1項,商法261条1項
判決文
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人黒須弥三郎、同五十嵐芳男の上告理由第一点一について。
D商工株式会社取締役Eが使用したD商工株式会社代表取締役代行者なる名称は、外観上第三者をして代表権の存在を窺わしめるに十分であり、商法二六二条にいう会社を代表する権限を有するものと認むべき名称に該当する旨の原審の判断は是認できる。原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。
同第一点二について。
D商工株式会社の取締役は、当時、代表取締役F、取締役E、同G、同Hの四名であつたが、代表取締役Fが昭和三四年九月中旬頃から、金策に行くと称して出掛けたまま所在不明となる緊急状態が生じたので、右代表取締役を除く取締役三名は、取締役Eをして会社を代表する権限を行使せしめるため、昭和三四年九月三〇日、「D商工株式会社代表取締役Fが昭和三四年九月一六日以降所在不明につきD商工株式会社の代表取締役の権限は取締役Eが代行することを承認する」旨の承認書に、いわゆる持ち廻りの方式により、各自の自宅等において署名押印して、取締役EがD商工株式会社の代表取締役の権限を代行することを明示的に表明し、これに基づき、取締役EはD商工株式会社代表取締役代行者名義の被上告人宛通告書を以て、被上告人に対し、本件ブルドーザー売買契約の合意解除を申込み、被上告人は右承諾書及び通告書の交付をうけて、取締役Eに右会社を代表する権限があると信じ右申込を承諾したものであること、以上の事実は、原審の適法に確定するところである。
右の事実によれば、行方不明の代表取締役を除く、D商工株式会社の取締役全員は、代表取締役F行方不明の間、取締役Eをして会社を代表させるため、同取締役に代表権を付与することとし、同取締役がD商工株式会社代表取締役代行者なる名称を以て代表権を行使することを承認したものと認められる。しかし、取締役らの右承認は、いわゆる持ち廻りの方式でなされたものにすぎないから、有効な取締役会の選任ということはできず、取締役Eは、これによつて、会社の代表権を取得することはできない。
しかし、株式会社の代表取締役が行方不明のため、他の取締役全員により、正式に代表取締役が選任せられるまでの間一時的に、会社の代表権を行使することを承認された取締役が、右承認にもとづき、代表権を有するものと認むべき名称を使用してその職務を行つたようなときは、右承認が有効な取締役会の代表者選任決議と認められず、無効である場合においても、会社は商法二六二条の法意に鑑み、同条の類推適用により、右名称を附した取締役の行為につき、善意の第三者に対してその責に任ずべきものと解するのが相当である。
そして、前記説示の本件事実関係は、右の場合にあたるものというべきであるから、D商工株式会社は、代表取締役代行者取締役Eのなした本件所為につき、商法二六二条に則り、被上告人に対しその責に任ずべきものである。結論において右と同旨の原審の判断は結局正当であり、論旨は採用することができない。
同第二点、第三について。
所論摘示の原審の事実認定は、原判決の挙示する証拠に照らして首肯するに足り、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 長部 謹吾
裁判官 入江 俊郎
裁判官 松田 二郎
裁判官 岩田 誠
裁判官 大隅 健一郎
解説
「代表取締役代行者」という名称と会社法354条
本判例によれば、「代表取締役代行者」という名称は、外観上第三者に代表権の存在を窺わせるのに十分であり、会社法354条(旧商法262条)にいう株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称に該当する。
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