判例情報
- 事件番号
- 昭和35(オ)1388
- 事件名
- 登記抹消等請求
- 裁判年月日
- 昭和38年9月5日
- 法廷名
- 最高裁判所第一小法廷
- 裁判種別
- 判決
- 結果
- 破棄差戻
- 判例集等巻・号・頁
- 民集 第17巻8号909頁
- 原審裁判所名
- 東京高等裁判所
- 原審事件番号
- 原審裁判年月日
- 昭和35年8月1日
- 判示事項
- 代表取締役の権限濫用の行為と民法第九三条。
- 裁判要旨
- 株式会社の代表取締役が自己の利益のため会社の代表者名義でなした法律行為は、相手方が右代表取締役の真意を知り、または、知りうべきものであつたときは、その効力を生じない。
- 参照法条
- 民法93条,商法261条
判決文
主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人大園時喜の上告理由第二点について。
株式会社の代表取締役が、自己の利益のため表面上会社の代表者として法律行為をなした場合において、相手方が右代表取締役の真意を知りまたは知り得べきものであつたときは、民法九三条但書の規定を類推し、右の法律行為はその効力を生じないものと解するのが相当である。
しかるに、原判決は、訴外Dは、登記簿上上告会社の代表権限があるのを幸い、自己の利益のために、上告会社所有の本件建物を被上告会社に売り渡したものであり、被上告会社は右の事情を知りながら悪意でこれを買い受けたものであるから、右の売買契約は無効である旨の上告会社の抗弁に対し、代表取締役が会社を代表して行為をする場合に、その経済的利益を自己におさめる底意があつたという事実は何ら会社に対する効果に影響はないとの理由により、果して上告会社が主張するとおり、訴外Dに背任的な権限濫用の行為があつたか否か、また、被上告会社の知情の点如何を審理判断することなく、たやすくこれを排斥しているのであつて、ひつきよう法令の解釈を誤り、ひいては審理不尽、理由不備の違法あるを免れない。従つて、論旨は理由があり、原判決は破棄すべきものである。
よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 入江 俊郎
裁判官 下飯坂 潤夫
裁判官 斎藤 朔郎
裁判官 長部 謹吾
解説
株式会社の代表取締役の権限濫用行為の能力
本判例によれば、株式会社の代表取締役が、自己の利益のため表面上会社の代表者として法律行為をした場合において、相手方が当該代表取締役の真意を知りまたは知り得べきものであったときは、民法93条1項ただし書(平成29年改正前民法民法93条ただし書)の規定を類推し、当該法律行為はその効力を生じない。
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