健康保険の保険者
保険者とは
健康保険事業の運営主体を「保険者」という。
保険者は、保険料の徴収や保険給付などを行う。
保険者の種類
健康保険の保険者は、次の2種類である(健康保険法4条)。
- 全国健康保険協会(健康保険法上は「協会」と略される。)
- 健康保険組合
ただし、日雇特例被保険者の保険者は、全国健康保険協会のみである(健康保険法123条1項)。
全国健康保険協会
全国健康保険協会は、健康保険組合の組合員でない被保険者の保険を管掌する(健康保険法5条1項)。
全国健康保険協会が管掌する保険を、全国健康保険協会管掌健康保険(愛称は「協会けんぽ」)という。
健康保険組合
健康保険組合は、その組合員である被保険者の保険を管掌する(健康保険法6条)。
健康保険組合が管掌する保険をを組合管掌健康保険という。
2以上の事業所に使用される者の保険者
「2以上の事業所に使用される者」とは、2か所以上の事業所に勤務する者(2か所以上の事業所で雇用される者)という意味である。
2以上の事業所に使用される者の保険者については、厚生労働省令(健康保険法施行規則)で定められている(健康保険法7条)。
保険者の選択の届出
被保険者(日雇特例被保険者を除く。)は、同時に2以上の事業所(事業所または事務所)に使用される場合において、保険者が2以上あるときは、その被保険者の保険を管掌する保険者を選択しなければならない(健康保険法施行規則1条1項)。
この選択は、同時に2以上の事業所に使用されるに至った日から10日以内に、下記の提出先に届書を提出することによって行う(健康保険法施行規則2条1項)。
- 全国健康保険協会(協会)を選択しようとするときは、厚生労働大臣に提出する。
- ただし、届書の受理については厚生労働大臣から日本年金機構(機構)に委任されている(健康保険法204条1項21号、健康保険法施行規則第158条の3・1号)ので、実際の提出先は機構である。
- 健康保険組合を選択しようとするときは、健康保険組合に提出する。
年金事務所の選択の届出
被保険者(日雇特例被保険者を除く。)が、同時に2以上の事業所に使用される場合において、当該2以上の事業所に係る日本年金機構(機構)の業務が2以上の年金事務所に分掌されているときは、被保険者は、その被保険者に関する機構の業務を分掌する年金事務所を選択しなければならない(健康保険法施行規則1条2項本文)。この場合の機構の業務とは、協会管掌健康保険に係る業務である。
保険者として健康保険組合を選択しようとする場合は、年金事務所を選択する必要はない(健康保険法施行規則1条2項ただし書)。
年金事務所の選択は、同時に2以上の事業所に使用されるに至った日から10日以内に、厚生労働大臣に届書を提出することによって行う(健康保険法施行規則2条4項、同条1項)。ただし、届書の受理については厚生労働大臣から日本年金機構(機構)に委任されている(健康保険法204条1項21号、健康保険法施行規則第158条の3・3号)ので、実際の提出先は機構である。
2以上の事業所勤務の届出
保険者は、厚生労働省令で定めるところにより、被保険者(日雇特例被保険者であった者を含む。)又は保険給付を受けるべき者に、保険者又は事業主に対して、この法律の施行に必要な申出若しくは届出をさせ、又は文書を提出させることができる(健康保険法197条2項)。
被保険者は、同時に2以上の事業所に使用されるに至ったときは、10日以内に、届書を厚生労働大臣または健康保険組合に提出しなければならない(健康保険法施行規則37条1項本文)。ただし、厚生労働大臣に提出する場合、届書の受理については厚生労働大臣から日本年金機構(機構)に委任されている(健康保険法204条1項21号、健康保険法施行規則第158条の3・13号)ので、実際の提出先は機構である。
なお、保険者の選択の届書(健康保険法2条1項)または年金事務所の選択の届書(健康保険法2条4項)を提出するときは、2以上の事業所勤務の届書を提出する必要はない(健康保険法施行規則37条1項ただし書)。
協会管掌健康保険
全国健康保険協会(以下「協会」という。)は、健康保険組合の組合員でない被保険者の保険を管掌する(健康保険法5条1項)。
法人格
協会は、法人である(健康保険法7条の3)。
事務所
協会は、主たる事務所を東京都に、従たる事務所(「支部」という。)を各都道府県に設置する(健康保険法7条の4・1項)。
協会が行う業務
協会は、次に掲げる業務を行う(健康保険法7条の2・2項)。
- 保険給付に関する業務(健康保険法7条の2・2項1号)
- 保健事業及び福祉事業に関する業務(健康保険法7条の2・2項2号)
- 協会が管掌する健康保険の事業に関する業務であって厚生労働大臣が行う業務以外のもの(健康保険法7条の2・2項3号)
- 日雇特例被保険者の保険の事業に関する業務であって厚生労働大臣が行う業務以外のもの(健康保険法7条の2・2項4号)
- 厚生労働大臣が事業主に対し、文書その他の物件の提出若しくは提示を命じ、又は当該職員をして事業所に立ち入って関係者に質問し、若しくは帳簿書類その他の物件を検査させる権限に係る事務(健康保険法7条の2・2項5号)
- 上記1~5の業務に附帯する業務(健康保険法7条の2・2項6号)
- 船員保険事業に関する業務(厚生労働大臣が行うものを除く。)、前期高齢者納付金等及び後期高齢者支援金等並びに介護納付金の納付に関する業務(健康保険法7条の2・3項)。
厚生労働大臣が行う業務
全国健康保険協会が管掌する健康保険の事業に関する業務のうち、被保険者の資格の取得及び喪失の確認、標準報酬月額及び標準賞与額の決定並びに保険料の徴収(任意継続被保険者に係るものを除く。)並びにこれらに附帯する業務は、厚生労働大臣が行う(健康保険法5条2項)。
これらの業務は、いわゆる「適用・徴収業務」と呼ばれているものである。
情報の提供等
厚生労働大臣は、協会に対し、被保険者の資格に関する事項、標準報酬に関する事項その他協会の業務の実施に関して必要な情報の提供を行うものとする(健康保険法51条の2)。
厚生労働大臣と協会の連携
厚生労働大臣及び協会は、健康保険法に基づく協会が管掌する健康保険の事業が、適正かつ円滑に行われるよう、必要な情報交換を行う等、相互の緊密な連携の確保に努めるものとする(健康保険法199条の2)。
定款
協会は、定款をもって、次に掲げる事項を定めなければならない(健康保険法7条の6・1項)。
- 目的
- 名称
- 事務所の所在地
- 役員に関する事項
- 運営委員会に関する事項
- 評議会に関する事項
- 保健事業に関する事項
- 福祉事業に関する事項
- 資産の管理その他財務に関する事項
- その他組織及び業務に関する重要事項として厚生労働省令で定める事項
定款の変更
定款の変更(厚生労働省令で定める事項に係るものを除く。)は、厚生労働大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない(健康保険法7条の6・2項)。
協会は、健康保険法7条の6・2項の厚生労働省令で定める事項(厚生労働大臣の認可を受ける必要がない事項)に係る定款の変更をしたときは、遅滞なく、これを厚生労働大臣に届け出なければならない(健康保険法7条の6・3項)。
健康保険法7条の6・2項の厚生労働省令で定める事項とは、事務所の所在地の変更のほか厚生労働大臣が定める事項である(健康保険法施行規則2条の3)。
定款の変更については、理事長は、あらかじめ、運営委員会の議を経なければならない(健康保険法7条の19・1項1号)。
運営規則
協会は、業務を執行するために必要な事項で厚生労働省令で定めるものについて、運営規則を定めるものとする(健康保険法7条の22)。
役員
協会に、役員として、理事長1人、理事6人以内及び監事2人が置かれる(健康保険法7条の9)。
役員の任期
役員の任期は3年である。ただし、補欠の役員の任期は、前任者の残任期間である(健康保険法7条の12・1項)。
役員は、再任されることができる(健康保険法7条の12・2項)。
役員の欠格条項
政府又は地方公共団体の職員(非常勤の者を除く。)は、役員となることができない(健康保険法7条の13)。
役員の職務
理事長は、協会を代表し、その業務を執行する(健康保険法7条の10・1項)。
理事は、理事長の定めるところにより、理事長を補佐して、協会の業務を執行することができる(健康保険法7条の10・3項)。
監事は、協会の業務の執行及び財務の状況を監査する(健康保険法7条の10・4項)。
役員の任命
理事長及び監事は、厚生労働大臣が任命する(健康保険法7条の11・1項)。
厚生労働大臣は、理事長を任命しようとするときは、あらかじめ、運営委員会の意見を聴かなければならない(健康保険法7条の11・2項)。
理事は、理事長が任命する(健康保険法7条の11・3項)。
理事長は、理事を任命したときは、遅滞なく、厚生労働大臣に届け出るとともに、これを公表しなければならない(健康保険法7条の11・4項)。
運営委員会
事業主及び被保険者の意見を反映させ、協会の業務の適正な運営を図るため、協会に運営委員会が置かれる(健康保険法7条の18・1項)。
運営委員会の委員は、9人以内とし、事業主、被保険者及び協会の業務の適正な運営に必要な学識経験を有する者のうちから、厚生労働大臣が各同数を任命する(健康保険法7条の18・2項)。
委員の任期は、2年である(健康保険法7条の18・3項)。
運営委員会の招集
運営委員会は、協会の理事長が招集する(健康保険法施行規則2条の4・1項)。
協会の理事長は、運営委員会の委員の総数の3分の1以上の委員が審議すべき事項を示して運営委員会の招集を請求したときは、運営委員会を招集しなければならない(健康保険法施行規則2条の4・2項)。
委員長
運営委員会に委員長が置かれ、委員の互選により選任される(健康保険法施行規則2条の4・3項)。
委員長は、運営委員会の議事を整理する(健康保険法施行規則2条の4・4項前段)。
評議会
協会は、都道府県ごとの実情に応じた業務の適正な運営に資するため、支部ごとに評議会を設け、当該支部における業務の実施について、評議会の意見を聴くものとされている(健康保険法7条の21・1項)。
評議会の評議員は、定款で定めるところにより、当該評議会が設けられる支部の都道府県に所在する適用事業所の事業主及び被保険者並びに当該支部における業務の適正な実施に必要な学識経験を有する者のうちから、支部の長(「支部長」という。)が委嘱する(健康保険法7条の21・2項)。
財務
事業年度
協会の事業年度は、毎年4月1日に始まり、翌年3月31日に終わる(健康保険法7条の25)。
事業計画等の認可
協会は、毎事業年度、事業計画及び予算を作成し、当該事業年度開始前に、厚生労働大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様である(健康保険法7条の27)。
財務諸表等
協会は、毎事業年度の決算を翌事業年度の5月31日までに完結しなければならない(健康保険法7条の28・1項)。
各事業年度に係る業績評価
厚生労働大臣は、協会の事業年度ごとの業績について、評価を行わなければならない(健康保険法7条の30・1項)。
厚生労働大臣は、前項の評価を行ったときは、遅滞なく、協会に対し、当該評価の結果を通知するとともに、これを公表しなければならない(健康保険法7条の30・2項)。
重要な財産の処分
協会は、厚生労働省令で定める重要な財産を譲渡し、又は担保に供しようとするときは、厚生労働大臣の認可を受けなければならない(健康保険法7条の34)。
監督
是正・改善命令
厚生労働大臣は、協会の事業若しくは財産の管理若しくは執行が法令、定款若しくは厚生労働大臣の処分に違反していると認めるとき、確保すべき収入を不当に確保せず、不当に経費を支出し、若しくは不当に財産を処分し、その他協会の事業若しくは財産の管理若しくは執行が著しく適正を欠くと認めるとき、又は協会の役員がその事業若しくは財産の管理若しくは執行を明らかに怠っていると認めるときは、期間を定めて、協会又はその役員に対し、その事業若しくは財産の管理若しくは執行について違反の是正又は改善のため必要な措置を採るべき旨を命ずることができる(健康保険法7条の39・1項)。
解任命令
協会又はその役員が上記の是正・改善命令に違反したときは、厚生労働大臣は、協会に対し、期間を定めて、当該違反に係る役員の全部又は一部の解任を命ずることができる(健康保険法7条の39・2項)。
解任
協会が上記の解任命令に違反したときは、厚生労働大臣は、同項の命令に係る役員を解任することができる(健康保険法7条の39・3項)。
組合管掌健康保険
健康保険組合は、その組合員である被保険者の保険を管掌する(健康保険法6条)。
組織
健康保険組合は、適用事業所の事業主、その適用事業所に使用される被保険者及び任意継続被保険者をもって組織される(健康保険法8条)。
法人格
健康保険組合は、法人である(健康保険法9条1項)。
設立
健康保険組合の設立には、任意設立と強制設立の2種類がある。
任意設立
2
第十二条 適用事業所の事業主は、健康保険組合を設立しようとするときは、健康保険組合を設立しようとする適用事業所に使用される被保険者の二分の一以上の同意を得て、規約を作り、厚生労働大臣の認可を受けなければならない。
2 二以上の適用事業所について健康保険組合を設立しようとする場合においては、前項の同意は、各適用事業所について得なければならない。
強制設立
単一組合
1又は2以上の適用事業所について常時700人以上の被保険者を使用する事業主は、当該1又は2以上の適用事業所について、健康保険組合を設立することができる(健康保険法11条1項、健康保険法施行令1条の2・1項)。
総合組合
適用事業所の事業主は、共同して健康保険組合を設立することができる。この場合において、被保険者の数は、合算して常時3000人以上でなければならない(健康保険法11条2項、健康保険法施行令1条の2・2項)。
コメント