公民権行使の保障

労働基準法で規定されている労働条件の基本7原則(労働憲章)のうち、公民権行使の保障(7条)について解説します。

 

公民権行使の保障

労働基準法7条は、「公民権行使の保障」について定めている。

(公民権行使の保障)

第七条 使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる

労働基準法7条の趣旨は、労働者が労働時間中に公的活動を行うことを保障することである。

使用者は、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、労働者から請求された時刻を変更することができる。この使用者の権利を「時刻変更権」という。

判例によると、使用者の承認を得ずに公職に就任した者を懲戒解雇する旨の就業規則の条項は、労働基準法7条の趣旨に反し、無効である(最判昭38・6・21、十和田観光電鉄事件)。

公民権行使の範囲

労働基準法7条の「公民」とは、国家又は公共団体の公務に参加する資格ある国民をいい、「公民としての権利」とは、公民に認められる国家又は公共団体の公務に参加する権利をいう(昭63・3・14基発150号)。

公民権に該当する権利の具体例は、次の通りである。

  • 法令に根拠を有する公職の選挙権及び被選挙権
  • 憲法の定める最高裁判所裁判官の国民審査(憲法第79条)
  • 特別法の住民投票(憲法第95条)
  • 憲法改正の国民投票(憲法第96条)
  • 地方自治法による住民の直接請求
  • 選挙権及び住民としての直接請求権の行使等の要件となる選挙人名簿の登録の申出(公職選挙法第21条)
  • 行政事件訴訟法第5条に規定する民衆訴訟並びに公職選挙法第25条に規定する選挙人名簿に関する訴訟及び同法第203条、第204条、第207条、第208条、第211条に規定する選挙又は当選に関する訴訟に係る訴権

公民権に該当しない権利の具体例は、次の通りである。

  • 他の立候補者のための選挙運動
  • 訴権の行使一般(上記の民衆訴訟選挙人名簿に関する訴訟及び選挙又は当選に関する訴訟に関する訴権の行使に係る訴権は公民権に該当する)

公の職務

労働基準法7条の「公の職務」とは、法令に根拠を有するものに限られるが、法令に基づく公の職務のすべてをいうものではない(昭63・3・14基発150号)。

「公の職務」に該当する職務の具体例は、次の通りである。

  • 国又は地方公共団体の公務に民意を反映してその適正を図る職務、例えば、衆議院議員その他の議員労働委員会の委員、陪審員、検察審査員、労働審判員裁判員、法令に基づいて設置される審議会の委員等の職務
  • 国又は地方公共団体の公務の公正妥当な執行を図る職務、例えば、民事訴訟法第271条による証人・労働委員会の証人等の職務
  • 地方公共団体の公務の適正な執行を監視するための職務、例えば、公職選挙法第38条第1項の選挙立会人等の職務

単に労務の提供を主たる目的とする職務は労働基準法7条の「公の職務」には含まれない(昭63・3・14基発150号)。

「公の職務」に該当しない職務の具体例は、次の通りである。

  • 予備自衛官が自衛隊法第70条の規定による防衛招集又は同法第71条の規定による訓練招集に応ずる
  • 非常勤の消防団員の職務

 

参考文献

浜村彰・他(2019)『ベーシック労働法(第7版)』有斐閣


労働基準法の解説記事一覧

総則

労働契約

  • 労働基準法違反の契約
  • 契約期間等
  • 労働条件の明示
  • 労働者の労働契約解除権と帰郷旅費
  • 賠償予定の禁止
  • 前借金相殺の禁止
  • 強制貯金
  • 退職時等の証明
  • 金品の返還
  • 解雇制限
  • 解雇の予告等
  • 解雇予告制度の適用除外者

賃金

  • 賃金の定義
  • 平均賃金
  • 賃金支払5原則
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